プロローグ 〜 タワミ振動は点音源振動
-
理想的なスピーカーは点音源であると言われています。
では、真の点音源があるとしたらそれは球の伸縮振動であり、表面はタワミ振動しています。ならば、同じ様なタワミ振動で、理想的な点音源を実現出来るであろう事を確認いたします。
靴音、机を叩いたときの音、ピアノの音、コントラバスの音、などから音が出るのは、床、机、ピアノの響板、コントラバスの本体、などの物体になんらかの力が加わり発生したタワミ振動が空気中に伝わるからです。
この様なタワミ振動とは点音源が振動しているのと同じ事だと理解できます。
図のモデルにおいて振動板は1と2の位置で固定されている時になんらかの力が加わり振動板が伸びて振動板Aまでタワむとします。この時に振動板は1と2で固定されているので、振動板Aは中心Aの円弧(球の一部の事もある)となります。続いて振動板は伸び続けて振動板Bまでタワむとします。この時振動板Bは中心Bとする円弧となります。つまり、振動板がタワむ振動は中心の位置が振動する円弧の事となります。
なお、1と2は固定されているとして振動板が伸び縮みするとしましたが、振動板の長さは変わらないで、1が固定されていて2の位置が移動する場合も同じです。なお、形状は円なのか平板なのか色々あり得ますが、この場合は長さだけに注目しておきます。
この様に、例えば振動板が1と2で固定されていない場合でも、なんらかの関係で円が正円にならなかったとしても、いわんやたとえどんな複雑なタワミ振動だとしても、タワミ振動とは中心の位置が振動する円弧,あるいは円弧の組み合わせとみなす事ができます。この後、振動板が下へタワんだとしても同じように中心の位置が振動する事に変わりはありません。
円弧とはすなわち点音源の音源、中心とは大きさゼロの焦点の事なので、タワミ振動は焦点が振動する点音源、タワミ振動は点音源振動と理解でき、球面波効果も期待できます。ただし振動板の後ろ方向へも音は出るので、正確に言えば前へ出る正相の半球面波と、後ろへ出る逆相の半球面波となります。
又、タワミ振動とは入力された音レベルに対して音圧と共に音の出る方向も変化させている、すなわち位相変調をしていると見えます。
と、ここまでタワミ振動に関して論じてきたのですが、見方を変えればこれはごく当たり前のことであり、これまでのヤヤコシイ説明も不要な程明白な事実があります。
実は、もともと自然界で物体から音が発生するのは、その物体の表面がタワミ振動しています。ですから、自然の音を出すにはタワミ振動で音を発生させれば良いのです。
なお、現実にある物と物とが接触して音が出る場所は極めて点に近い部分なので、より球面波に近くなりますが、あくまで音が出る場所は点の伸縮振動に近い、小さい面積のタワミ振動です。人の声帯も実際はタワミ振動していますが、声帯や口は十分に小さいのでより球面波のように感じられます。
この様に元々、自然な音を出すための最善の方法はタワミ振動、と自然の摂理は教えているのです。
当然、今までに各メーカーから、タワミ振動を利用するスピーカーの特許、アイデアが多数存在しています。
例えば、タワミ振動スピーカー、寺垣スピーカー、骨伝導スピーカー、超磁歪素子スピーカー、平板スピーカーの一部などであり、これらの技術を分類分けして項目化していくと振動板のタワミ振動で動作する「ループ接続振動発生システム」というべき一つの形態も浮かび上がります。
しかしタワミ振動はすなわち固有振動のことで、音質的には自然の音を発声させることができるのですが、求めるべき周波数特性を得ることが、今まではどのメーカーにもできませんでした。
この様な過去の先行技術の道に沿って進んで、タワミ振動の最大の弱点である固有振動をコントロールして、点駆動スピーカーとして実用化へ至った経緯を、説明いたします。
.
.
先行技術1 タワミ振動スピーカー
-
オーセンティックのタワミ振動スピーカーです。
図によるとボイスコイルVを保持するボビンBが直接振動板Pに接続されていてタワミ振動スピーカーを形成している。
しかしこの構造だとボビンBの振動が振動板Pへ伝わるものの、ユニット本体のヨークYiなどが反動で動いてしまい発生した振動エネルギーが無駄に消費されてしまう欠点がある。
引用文献 特開2004−241801
.
.
先行技術2 寺垣スピーカー
-
寺垣スピーカーの理論によると、「空気中の疎密波以外の音波が存在する」とあります。つまり、従来のスピーカーの円錐形のコーン紙が空気の疎密波を作る構造とは異なる構造のスピーカーもあり得ると提示されていて、四角い紙片、たとえば弯曲したプラスチック下敷きからオルゴールの音がする実験を寺垣武氏が示しています。
寺垣氏の「楽器は皆こうして音を出しているんですよ」というゆるぎない断固たるメッセージはさすがインパクトがあり、寺垣氏から受けたこの発想が点駆動スピーカーの原点となりました。
なお、この実験の本質はオルゴール自体がのちに述べるループ接続振動発生システムであり、タワミ振動発生システムとなっている事で、オルゴールが出したタワミ波の振動が紙片へ伝わり拡散波の音が出ています。
詳しくは[ 直進波と拡散波 ]へ。
すなわち、寺垣氏の言っている物質波、武藤教授の言っている横波の音とはどちらも拡散波の音の事、と理解できます。
参考サイト
http://www.teragaki-takeshi.jp/
http://www.teragaki-labo.co.jp/
.
.
- 先行技術3 横波スピーカー
-
寺垣氏のスピーカーからヒントをえて慶応大の武藤教授の作成した横波スピーカーです。
振動板の湾曲した部分は平行往復運動ではなくタワミ運動していて、それなりのタワミ波は発生するけれど、振動板とユニットの結合部分はタワミ波の発生には無駄な動作が起きてしまう。
なお、振動板を湾曲させる事で振動板自体の内部損失を小さくし、音を出やすくしています。又,湾曲が縦方向だけなので音の拡散は減少する事になり、遠くまで音が届くという利点があります。
なお横波という名前になっていますが、横波=タワミ波の事であり、音が横波という訳ではなく、振動板が横波で振動し、音は拡散波の縦波となり、いわば横波に変調された縦波と言うべき音波のことです。
横波で変調された電波は受信する事が可能ですが、音の場合は変調されているのかどうかを一般の人は聞き取れませんし、これを聞き取るには高度な装置が必要となります。
引用文献 特開2007−19623
参考文献 http://www.neuro.sfc.keio.ac.jp/publications/pdf/sensor.pdf
.
.
- 先行技術4 骨伝導スピーカー
-
テムコジャパンの骨伝導スピーカーです。
コイル4に入力されると振動板7に振動が発生してハウジング1に振動が伝わる構造を図に示した。
これを使用するにはハウジングを例えば携帯電話のケースなどに接して、ケースにタワミ振動を発生させて使うと思われるけど、空気に音を放出する機能を持つパーツがケータイ電話のケースでは良好な音質を得る事は難しい。
オーディオ性能を上げるには空気中に音声を放出できる振動板を含めたシステムにする必要があろう。
基本的に骨伝導とはタワミ振動とほぼ同じ物理現象といえます。すなわちこの振動には縦波と横波とが混在しています。
引用文献 特開2003−340370
.
.
- 先行技術5 超磁歪素子スピーカー
-
ソニーの超磁歪素子スピーカーです。
超磁歪アクチュエータ110を利用し振動板130にタワミ運動、すなわち非単一往復運動を発生させている例を図に示した。
しかし、超磁歪アクチュエータでは空気中に音声を放出するに十分に大きな出力は得られない。
超磁歪素子とはまさにタワミ振動をする素子です。
引用文献 特開2007−104603
.
.
- 先行技術6 平板スピーカー
-
パナソニックの平板スピーカーです。
ボイスコイルドライバの可動部分に相当する伝達部材202は、直接平板振動板203に接続されていて、続いて平板振動板203は本体であるフレーム201に固定接続されているシステムを図に示した。
しかし、この構造において、筒状部204とフランジ部205、及びフランジ部205が接続された振動板203の部分、これらは一体となっているのでボイスコイル104が往復運動するとこれら一体となっている部分も往復運動してしまい、タワミ振動が起きにくくなってしまう。
引用文献 特開2010−283565
.
.
ループ接続振動発生システムの定義
-
このように、振動板のタワミ運動で発音するスピーカーは様々に存在してきました。(なお、超音波を発生させるのも振動板はタワミ振動で動作させています。)
又、これ以外にもスピーカーではないけれど似た構造の振動発生システムで、板を長さ方向にハンマーでたたいてタワミ振動を起こす、というやり方があります。これで発生した振動が反射して返ってくるのを受信して地中の構造を観測する機器です。又もう一つ、これに似た楽器が存在します。それは拍子木。「火の用心」と言いながら響く拍子木の音は衝撃波風なとても大きな音がします。板を長さ方向にハンマーでたたくやり方と、拍子木、これら2つのシステムはどちらも振動を発生させるものに強力な圧力を加えているのは同じ構造です。
なお、板を長さ方向にハンマーをたたくやり方は現在では超磁歪素子発振子に代わっています。
このようなスピーカーや振動発生システムは、従来のスピーカーのように、振動板が平行往復運動ではなくて、伸縮、たわみ、捻じれ運動などで音を起こす構造なのは同じであり、そして、効率よくシステムを働かせるのには、ただ単に発振体の可動部分を振動板に接続して振動を伝える構造にするだけではなく、振動板はシッカリと固定接続する必要があるのです。
例えばバイオリンから音を出す場合、黙っていてはバイオリンは音を出してくれないので人が手に取って弾かなくてはなりません。もしバイオリンを机の上に置いたままで弾こうとしてもバイオリンが安定せずうまく弾くことは出来ません。
そこで、図の様にバイオリン本体を肩と左手でシッカリと支えて、右手で弓をシッカリと持ちバイオリンの弦をシッカリとこすり、弦及び本体にタワミ振動を発生させる必要があるのです。つまり、振動をああえる対象物であるバイオリン本体をシッカリと固定接続する必要があります。
この様にバイオリンから音を出すシステムを構成する主要なパーツ、「バイオリンの弦」「バイオリン本体」「人間の体」「弓」は直列にループ状に接続されています。
このように、人工的にタワミ振動を効率的に出すための構造を「ループ接続振動発生システム」又は「タワミ振動発生システム」とし、以下のように定義します。
”発振体、可動部分、振動板、など主要なパーツがループ状に固定接続されている振動発生システム。”
これをスピーカーで実施した例の比較図を下に示しました。
従来のスピーカーの振動板は固定接続されていないで、柔らかいエッジで本体に支えられていて振動板は平行往復運動しますが、ループ接続振動発生システムより成るスピーカーの振動板は本体と固定接続されていて、スピーカーシステムを構成する発振体、可動部分、振動板、本体はループ状に固定接続されていてます。
振動板はタワミ運動で、前面からは正相の半球面波、背面からは逆位相の半球面波の音声を発生します。(詳細は、タワミ振動は点音源振動)従来のスピーカーの様に前と後ろから出る、正相逆相の音が互いに打ち消しあうことはありません。
*****************(メモ)*******************
この様にループ接続振動発生システムを定義すると、寺垣氏の実験の意味も分かってきます。つまり、オルゴールのピン、音を出す鉄片、回転ドラム、本体などの主要なパーツはループ状に接続されていて、実はあのオルゴール自体がループ接続振動発生システムになっていて、発生したタワミ振動が紙片に伝達して音を出していたのです。
オルゴールの実験を見たことから始まった旅が、ループ接続振動発生システムに到着して、改めて実はオルゴールの構造はループ接続振動発生システムだったという事が判明したの、で、す。
.
.
点接続の原理
-
エジソンの発明した蓄音機の音を出す装置であるサウンドボックスは、レコード溝をトレースした振動をカンチレバーが振動板へ点で接続して伝えています。
エジソン自身が「点接続」「タワミ振動」という言葉を意識していたかどうかは分かりませんが、明らかに今のスピーカーの振動板にボイスコイル断面の面で接続している構造とは異なり、大変面積の小さい点で接続されていて、しかも、カンチレバーは円弧運動をするので、振動板の平行往復運動は絶対にありえない構造になっています。
恐らく直感的にこの接続方法が有効だろうと思い、このように面積の小さい接続で振動板を駆動する事を、世界で初めて実施したエジソンを再評価する意味で、このように、タワミ振動を発生するのに効果的な技術を「点接続の原理」と、定義します。
すなわち、エジソンが発明したのは完全アナログの電気を使わない機械的動作をする点で駆動するスピーカーだったのです。
●面接続
例えば下左図では、発振体の可動部分の先はボイスコイルの直径と同等の大きさの円柱状で形成されているので、ある程度の面積を有して平板振動板に、いわば面接続されています。
この時可動部分が図の様に上下に往復運動すると、面接続の平面も、又振動板全体も単純に平行往復運動し、振動板のどこからも同じ位相で音声が発生します。
●点接続
つづいて上右図の様に、円錐形にした可動部分の先を振動板に点接続します。
この状態では、面接続のように平行往復運動する面積は無いので平板振動板にはタワミ運動が能率よく発生します。この動作概念を「点接続の原理」とします。
.
.
点で駆動するスピーカーの特許構造
-
上記説明の「ループ接続振動発生システム」に、続いて説明した「点接続の原理」を応用して構成したジャズマンのウーハー点で駆動するスピーカーの構造を右図に示しました。
先端が円錐状に形成された可動部分の先は平板振動板に点接続されていて、本体、ドライバなど他のパーツとループ状に接続されていて、として「点駆動」で動作する、「ループ接続振動発生システム」を形成しています。
これは、蓄音機のサウンドボックスをボイスコイルの使用でエレクトロニクス的に動作するようにして、スピーカー性能を改善したものとなりました。
平板振動板はタワミ運動をし、前面からは正相の半球面波、あるいはその組み合わせが、背面からは逆位相の半球面波、あるいはその組み合わせの音声が出て、平板振動板の大きさを大きくしても聴感的に点音源と同等に機能します。
(詳細は、タワミ振動は点音源振動)
**************************************
「点接続の原理」の特許の内容=特許請求の範囲
円錐形になっている可動部分の先を振動板に点接続で固定接続した構造のスピーカー
**************************************
タワミ振動とは固有振動そのもので、振動板の不要な固有振動を今までどのメーカーもコントロールできていませんでしたが、ジャズマンのウーハーの点で駆動するスピーカーの振動板の材質と構造の選択(特許未申請ですので公開不可)で固有振動をコントロールして実用的な周波数特性を得る事が出来ました。
.
.